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やすら樹 NO.85
医療と内観 ―第19回―
棚卸し
2ヶ月前に退院したアルコ-ル依存症(以後ア症)のA君が、「内観って、AAの棚卸しと似ているんですね。ミーティングの仲間からも指摘され、(内観という)良い経験をしたねと言われました。」と、ちょっと得意そうに語ってくれた。A君は、二十代後半のア症で富山市民方式の内観体験を持ち、隣県にある自助グループのAAに参加している若者である。
A君が参加しているAAは、約七十年前のアメリカで誕生し、自助組織としては草分け的存在。このAAの特徴は、「12のステップ」という回復プログラムを持ち、「12の伝統」という規律に従って活動を行っている点である。
何故、A君が内観と良く似ていると実感したのか。それは「12のステップ」を読むと良くわかる。一文を紹介すると、
第四段階:恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行ない、それを表に作った。
第五段階:神に対し、自分に対し、そしてもう一人の人に対して、自分の過ちの本質を ありのままに認めた。
第六段階:こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう準備がすべて整った。
第七段階:私たちの短所を取り除いて下さいと、謙虚に神に求めた。
第八段階:私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合わ せをしようとする気持ちになった。
第九段階:その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、その人たちに直 接埋め合わせをした。
第十段階:自分自身の棚卸しを続け、間違ったときは直ちにそれを認めた。
各ステップを通読すると、棚卸しと内観がよく似ている事に気づく。ただ、神という言葉に戸惑いを感じて意味がわかりにくい時に、この神を人間の力を超えた力・霊的な力として読み替えると文意がわかりやすい。さらに、第十段階で棚卸しを継続的行う必要性が書かれ、日常内観の必要性と共通する。ただ、内観には、棚卸しの具体的な方法が示されているが、この回復プログラムにはない。
このように、棚卸しの重要性は認識できるが、人の脳に棚卸しはどのような働きをしているのか。一つは、人の記憶系にデフラグをしていると私は考えている。このデフラグは、コンピュータ用語で、別名が最適化と言われている。この用語の意味を知らなくてもパソコンを日常使うのには問題がほとんどない。IT用語辞典によると、記憶装置内のファイルを先頭から再配置し、空き領域の断片化を解消すること、と記されている。例えれば、住所録のノートを作った。データが増加するとナンバーリングしたノートを何冊も必要となる。まとめて本箱に入れればよいが、入れる空きがなく別の本箱に一部を入れる必要が出てくる。住所録を取り出す際に時間がかかる。対応として本箱の本を全部棚から出し、住所録や家計場を順番よく再度入れ直しする作業がデフラグで、パソコンでは作業スピードがアップ。人で棚卸し作業をすると、記憶の断片が小さい時から順序よく整理され、記憶に関する効率の良い作業を保障する。内観をして5,6日して内観効果が良くなるのも、記憶のデフラグが終了して記憶効率が格段に向上した結果かもしれない。さらに、単に記憶の順序だて以外に、過去の記憶と記憶との関連づけが良くなり、今までと異なる判断や認識が生まれるのではと思う。
自分のパソコンに対するデフラグと同時に、自分にも棚卸し、内観はいかがでしょうか。
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