top of page

やすら樹 NO.87

医療と内観 ―第21回―

   分化度

 今回は前回の続編的な話しです。精神分析の基盤に立って独自の家族システム理論を発展させたボーエンの考えの一端を紹介します。


 彼は2組の対概念を考えた。それは「個別性と集合性」、「知性システムと感情システム」で、自立した存在になりたいという本能的欲動を個別性(自律性)、集団や他者との結びつきを求める本能的要求を集合性とした。一方、人の思考や行動は知的に決められる面と感情的に決定される側面があり、大脳皮質が司る知性システムと大脳辺縁系が働く感情システムを考えた。この対概念の関係は、感情と知性システムの融合が高くなると集合性の影響を受けやすく、自我と他者の境界が不鮮明で、非現実的な評価により他者との関係を成立させようとして人間関係に不要な緊張を増し、感情的に反応しやすく、他者からの感情的影響も受けやすくなるなど低分化度である。感情と知性システムの分化が高くなると、客観的評価に基づいた自分自身の原則と信念を形成していくことが自由にできるようになり分化度が高くなる。


 では、ここでパートナー同士の分化度について具体例で考えてみましょう。アルコ-ル依存症に関してメール相談を受けていた時の話しです。A子さんから、「長年に渡り、妻子ある男性と付き合ってきたが、彼とはたまにしか会うことができず、アパートに仕事から帰ると一歩も外に出ることができないなど独占欲が強く、嫉妬深く、暴力的である。とにかく寂しくて寂しくて仕方がない。彼と別れることにしたが、今更、別れて一体どうしたらよいのか。誰でもいいから側にいて欲しくて、先日も酔っぱらって道で寝ていたところ、知らない男性に声を掛けられ、ノコノコと車に乗って----。何とかお酒を断ちたいのです」という内容でした。A子さんとのメール相談はその後、断続的でしたが2年弱続きました。


 A子と彼氏の関係は、ダッチロールしながら続いていましたが、少しずつ関係性の変化を認めています。相談当初は「あなたなしでは生きていけない」という、愛という名の鎖でお互いに体を縛りつけている関係でした。二人の人間関係の存続にエネルギ-を使い果たしており、お互いに相手に振り回され、二人の人間関係が距離的に近づくとケンカとなり、離れると寂しく、互いに愛を確認しあってないと不安が高まるという、低分化度にあります。正に「ハリネズミのジレンマ」の関係で、二匹のハリネズミがハリが体に刺さらない距離を最後に見つけましたが、まだ二人の関係は試行錯誤を繰り返しています。


 ある時、A子は今の彼と同じような男性交際を告白した時に「ただ、私はあなたに対して、いたわりの言葉をかけるだけではやはりいけないと思っています。----めぐりあった男性は、確かに世の中の一般常識で言えばひどい人でしょうが、どこかあなととフィーリングがあったはずです。ボーエンという大家が、ペアのカップルができる時、分化度(ほぼ自律度に近い意味)のよく似た人を選ぶといいます。どうして、そんなに身勝手な男性との出会いばかりあるのか。あなた自身、分化度を上げないと、やはり似たような男性との出会いしかないように思います」と答えている。


 「あなたがいなくても生きていける。でも、あなたがいればより幸せだ。」と言えるような分化度の高いペアでありたいものです。分化度をあげる方法の一つが内観をすることは読者のみなさんに言わずもがなでしょうが。

Copyright(C) 2019 Hiroaki Yoshimoto

bottom of page