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やすら樹 NO.89
医療と内観 ―第23回―
マティスと過程・変奏
家内と久し振りに上野の国立西洋美術館で開催されていたマティス展に足を運んだ。会場は人混みで一杯。マティスってそんなに有名なのと心に思いながらも作品を鑑賞した。
私が興味を持ったのは、作品に関してこの展覧会に2つのコンセプトが用意されていた点である。バリエーション(変奏)とプロセス(過程)。それと、年をとってもエネルギッシュに活動し、まさに老成といえる人生を送ったマティス自身。作品と彼自身を通して、私は医療や内観療法にある思いを描いたからです。
マティスについては、国立西洋美術館のホームページ上で、「アンリ・マティスは、20世紀を代表する画家としてその名を広く知られています。1905年の秋にパリで開催された展覧会(サロン・ドートンヌ)に、色鮮やかで大胆な表現による作品を出品し、大きな衝撃をもたらして以降(そのときマティスと彼の仲間たちは「野獣派」と呼ばれました)、絵画表現の新たな可能性を開いた革新者として、その名声を高めていきました。マティスの作品が持つ色彩の美しさと装飾性は、人々を魅了してやみません。しかし、一見簡単に描かれたように見える彼の作品も、実は長い熟慮と試行錯誤による賜物です。」と述べられている。
マティスは、特に作品が完成するプロセス(過程)に大きな意味を見いだしており、制作途上で変化していく表現を写真に撮って記録したり、個展で記録写真と完成作品を一緒に並べて展示したりしている。実際に、展覧会場で彼の作品が完成していくプロセスを開示してあります。例えば、15回の下書きと8ヶ月もの歳月を費やした「夢<スミレ色のテーブルで眠る女>」のように。完成された作品に描かれた単純な線や色は、インスピレーションに基づいて簡単無造作に描かれたものでなく、そこにある線や色使いは推敲され、試行錯誤の末に計算し尽くされたもので有ることが展示されたものより理解できる。
さらに、彼はデッサンや写実的な絵画から出発し、写真の登場による絵画の写実性という役割から解放された新しい表現形を模索し、年を経るにつれて,絵画の構図が大胆になり、病気で絵筆を持てなくなったという事もあるが、切り絵による作品、「ポリネシア,空」「ポリネシア,海」、ジャズ・シリーズなどに代表されるような構図や、マティス・ブルーと言われる色彩を確立した。若い画家にマティスはたどりついたと称されるが、彼の絵の前に佇むと納得でき、老成や老熟を超えたものを感じのは私だけではないのでは。
医療に目を転じると、医療は医師と患者関係で成立する。医師は「患者の病気の治癒や生活の質を高める」という主題の基に、いろいろな角度でいろいろな治療法、例えば精神科においては薬物療法や精神療法、生活療法、家族療法、そして内観療法などを駆使する。そこにはバリエーションが展開される。さらに、主題を達成する為に、日々の治療場面に置いて、薬物の投与を例にすれば患者の体質、病態などを考慮して、患者の意見を聞きながら医師の経験を交えて試行錯誤しながらその個人に合った最適量を処方することになる。それにいたるまでの過程はカルテに記載される。微妙な匙加減まではすべて残すことは困難ですが。
最後に、医療や内観療法においても、結果だけを重視するのではなく、バリエーションやプロセスの大事さを認識する必要性も感じる。マティスのあくなき探求心も忘れられないものである。
Copyright(C) 2019 Hiroaki Yoshimoto