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アルコール関連障害障害 ―第19回―
アルコール依存症と偏見
前回は、少し難しい話となりましたが、今回は内容はわかりやすいですが、ではそれでどうなんだと言われると、なかなか困る話になるかもしれません。
偏見という用語をフリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」で調べると、「偏った見方のことで、人間は、ある対象に対して、その見かけや所属などに関する一部だけの知識、あるいは自己と自己の属する社会、宗教、文化などに特有の価値観を基準としてその対象を判断する傾向があり、その傾向によって生み出される思考が偏見である。」としている。
確かに、アルコール依存症(以下、ア症)に対する日本人の偏見や誤解が存在しているのは確かで、「アル中」という用語に集約されるかもしれない。駅や公園で酔っぱらって寝ている人、酔って暴れたりDVする人、仕事もせずに家族に迷惑をかける人など、良くないイメージが定着している。この偏見がこの病気に認める否認を生みだし、早期発見・早期治療を遅らせている。しかしながら、第1回から第18回まで通読された方は、偏った知識でこの病気を判断されることが少なくなり従来のア症に対するイメージが変わり、アルコール依存症をきちんと病気として考えることができ、この病気に対する偏見が少なくなると信じている。
この点について、最近に朗報がある。「ヒゲの殿下」として国民に親しまれている三笠宮寛仁(ともひと)殿下が、この病気に罹って入院治療を行っていることを発表された。「本人の意向を踏まえての発表」(宮内庁)ということで、殿下の勇気に拍手を送りたい一人である。たまたま、週刊文春の記者に殿下の病気についてのコメントを求められたことがあるので、その一文を載せておく。週刊文春7月5日号で「寛仁親王は焼酎梅入りがお好き」に、「治療は酒を抜くことから始まり、体と脳の回復を目指します。入院となれば三カ月程度が一般的です。寛仁さまの場合、ご自身で病名の公表を望まれたとのことですから、動機がお強いという意味で治療にはプラスでしょう。ストレスが多い著名人の方にはアルコール依存症になられる方がおられますが、偏見を恐れて隠してしまう。殿下の今回の公表は、同じ症状を抱える患者の励みになります」と私はコメントした。これを機会に、病気に対する偏見が薄れ、社会の理解が深まることを期待したい。
それにつけても、私が医師になってまもなく、大正 7(1918)年に出版された呉秀三と樫田五郎による「精神病者私宅監置の実況及び其統計的観察」の復刻版を読んだ時の記憶が蘇る。特に、「我邦十何万、精神病者ハ実ニ此病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ、此邦ニ生レタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ。」の箇所である。つまり、日本の精神障害者はこの病気になった不幸に加えてこの国に生まれたという二重の不幸を背負っているという一文で、呉秀三は座敷牢に入れられ治療を受けていない現状を嘆き、医療や福祉的施策の必要性を著書の中で訴えている。ア症になっても、日本という国に生まれて本当に良かったと言える国になってほしいものである。
次回は、第二十回「エピローグ」を述べたいと思います。
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