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アルコール関連障害障害 ―第7回―
飲酒による精神問題その1
前回は、飲酒による肝臓や心臓などの臓器の障害だけでなく、脳神経系もダメージがある点を指摘した。また、文中で「脳神経が障害されてウエルニッケ・コルサコフ脳症になることもあります」と書きましたが、今回は聞き慣れない病気、ウエルニッケ・コルサコフ脳症について述べてみましょう。
この病気は、アルコール依存症に合併して出現する場合が多く、アルコール依存症にかかった人の3から10%に発症すると言われている。しかし、非アルコール性の原因、妊娠時のつわりや内臓手術に伴い食事がとれずに高カロリー輸液が行われた際にビタミンB1(チアミン)が投与されない時にも発生し、この病気の発現が社会問題となり医事訴訟に及んだりしている。
このウエルニッケ・コルサコフ脳症という病気の由来は、1881年にウエルニッケが眼の動きの障害、意識障害、歩行がうまくできないなど三つの症状を認めた症例を報告し、それぞれの患者さんの脳に共通した病理所見があると報告をした。それが後に報告した人の名前をとりウェルニッケ脳症と名付けられた。
少し遅れて1887年にコルサコフが、主にアルコール依存症に認められた特有な精神症状を報告した。それは、食事や薬を飲んだこと、面会したことなど数分前のことも覚えていることができないなどの記銘の障害、病気になる以前の出来事を覚えていないという逆行性健忘、場所や時間を正確に言えないなどの失見当識、そして作り話をする作話の4症状であった。これらの症状を認める病態をコルサコフ精神病やコルサコフ症候群と呼ばれるようになった。
その後、この両疾患はビタミンB1欠乏による同一な病気であることが明かとなった。きっかけは、臨床症状の観察とビタミンB1欠乏を動物実験で証明されたことによる。臨床症状観察によれば、この2つの病気は同じ病気であるが、ただ異なった時期を観察していたに過ぎなく、それぞれに病名がつけられていたことになる。
つまり、急性期がウェルニッケ脳症の臨床症状を、亜急性期や慢性期がコルサコフ精神病の臨床症状を示していたことになる。二つの病気を合わせて、現在はウエルニッケ・コルサコフ脳症と呼ばれるようになった。
さて、アルコール依存症者にこの病気が多いのは、ビタミンB1が腸管で吸収されるが体内での蓄積量が少なく、空酒をするとすぐに欠乏しやすいのと、吸収が阻害されやすい上に、肝臓でアルコールの分解にビタミンB1が消費されることで、容易に欠乏症を起こしやすい。
この病気に罹ると、急性期のウエルニッケ脳症の段階で治療されないと15から20%が死にいたるとされている。死にいたらなくても慢性期のコルサコフ病の段階に移行することが多く、良くなっても記憶障害を残し、普通の生活を送りにくいと言われている。
この病気の原因がビタミンB1欠乏であるので、早い段階で病気を診断しビタミンB1を補充することが大事となるが、診断がなかなか難しいのが現状である。まず、予防が第一で、アルコールを飲む場合にはビタミンを含めた物を食べて飲むようにすることが大切である。空酒はくれぐれもご注意を。
次回は、アルコールによる精神の障害(2)を取り上げたいと思います。
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